多国籍企業研究第11号
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31ラグジュアリー消費における知覚価値と倹約志向の相互作用      ― ラグジュアリー・ブランド品を所有する日本人を対象に ― 李  炅泰以上を踏まえ、3つの知覚価値と満足の関係について、次のような仮説を立てる。H1:LBの実用的価値と満足は正の関係を持つ。H2:LBの感情的価値と満足は正の関係を持つ。H3:LBの象徴的価値と満足は正の関係を持つ。満足と意図の関係:満足と意図の因果関係は、多くの研究で検証されてきた(Kim et al., 2012)。満足は嬉しい感情状態(Chiu et al., 2013)ないしは全般的な喜びや知足の程度(Hellier et al., 2003)を表す。それは購入後の情緒的反応であり、対象への強い覚醒と注目につながって再購買行動を誘発する(Patterson & Spreng, 1997)。現に、様々なコンテクストの研究で、満足は意図の有力な予測要因であることがわかっている(e.g., Chiu et al., 2013; Kim et al., 2012; LaBarbera & Mazursky, 1983; Patterson & Spreng, 1997; Udo et al., 2010)。それを受けて、本稿ではLB消費の文脈でも満足と意図の間に正の因果関係があると仮定する。H4:LBに対する満足と意図は正の関係を持つ。2.2 倹約(frugality)概念:倹約については、学術的関心が高まっているものの、研究実績はまだ少ないといわれている(Goldsmith & Flynn, 2015)。倹約は「費用を切り詰めて無駄遣いしないこと。節約。」(『広辞苑』)と定義され、学術的には価値観とライフスタイル特性の2つの視点から捉えられてきた。前者は、様々な状況下で行動と判断の指針となる価値観として倹約をみる(Bove et al., 2009)。それに対して後者は、価値観の1つというより複数の価値観が関わる生活様式として倹約を理解する(Pepper et al., 2009; Todd & Lawson, 2003)。この視点での倹約は、ある目標の達成に向けられた節約行動の程度と頻度で説明される(Bove et al., 2009)。この2つの視点は互いに関連しているが、概念的には区別される。価値観としての倹約が様々な状況を通して簡単に変わらず、自己規律的な行動をガイドする原理である一方、ライフスタイル特性としての倹約は目的志向性を持つもので、特定の目標を達成するために実践される行動という側面がある(Bove et al., 2009)。したがって、後者の場合、目的が達成された後にも倹約行動が続くとは限らないと考えられる。消費者倹約の概念を先駆的に論じたLastovicka et al.(1999)も、倹約を長期目標の達成に向けた消費者のライフスタイル特性として規定する。そして、モノやサービスに対する節制された取得と工夫に富んだ活用をその特徴として挙げている。このように、倹約消費者は目前の消費を楽しむより、現在の節約が報われて得られる将来の報奨を重視する(Bearden et al., 2006)。倹約消費者(frugal consumer):倹約消費者については、他にも種々の特徴が報告されている。上述のLastovicka et al.(1999)によると、倹約消費者は価格と価値に関する意識が高く、強迫的

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