多国籍企業研究第11号
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30ラグジュアリー消費における知覚価値と倹約志向の相互作用      ― ラグジュアリー・ブランド品を所有する日本人を対象に ― 李  炅泰拡張を軸とする社会・対人的次元である。換言して、各々を実用的価値、感情的価値、象徴的価値といい直すことができよう(図表1参照)。これらはWong & Ahuvia(1998)が指摘した、消費者が追い求める3つの製品価値、すなわち、道具的価値、快楽的価値、象徴的価値に対応している。同稿によると、製品がもたらす価値は大きくこの3タイプに大別でき、ほとんどの製品が多かれ少なかれこれらの価値を提供し得るという。また、Aaker(1996)が論じた、ブランド・アイデンティティが提案すべき3種類の価値次元、すなわち、機能的便益、情緒的便益、自己表現的便益にも対応している。同著では、複数の便益を包含した拡張的な価値提案の重要性を指摘している。LBの種々な知覚価値次元も3つのタイプにまとめることができる(図表1)。そこで、本稿では実用的、感情的、象徴的な知覚価値を中心に仮説を構築する。図表1 LBの知覚価値次元実用的価値感情的価値象徴的価値Vigneron & Johnson (1999)QualityHedonismConspicuousnessExtended-selfUniquenessWiedmann et al. (2007)FunctionalFinancialIndividualSocialTynan et al. (2010),Shukla & Purani (2012)UtilitarianCost/sacriceExperiential/hedonicSymbolic/expressive* RelationalTroung & McColl (2011)QualitySelf-directed pleasureConspicuousLe Monkhouse et al. (2012)QualityHedonismConspicuousnessExtended-selfExclusivity* Symbolic/expressiveはouter-directedとself-directedにさらに小分類される。(出所)筆者作成。知覚価値と満足の関係:3つの知覚価値次元は、それぞれ満足を部分規定すると考えられる。第1に、消費者はLBに通常の製品より高い品質と効用を期待するため、認知的次元の実用的価値が満足と正の関係を持つと考えられる(Shukla & Purani, 2012; Wiedmann et al., 2009)。現に、匠の技、優れた品質、高いパフォーマンスなどは高級ブランド品を一般製品と差別化させる基本属性であり(Vigneron & Johnshon, 2004)、この価値が高いほど満足も高まると予想される。第2に、感情的価値は情緒的な快楽や喜びに関わる価値次元のため、LB消費でこの価値を強く知覚するほど喜びや高揚感を覚えやすく、高い満足につながると考えられる。第3に、消費者はLBに対して品質や快楽の他にも、ステータスやプレステージのある人物として自己を象徴的に拡張し、社会的かつ対人的にアイデンティティを表す役割を期待する(Le Monkhouse et al., 2012; Vigneron & Johnshon, 2004; Wiedmann et al., 2009)。したがって、象徴的価値を強く知覚するほど満足も高まると予想される。

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