多国籍企業研究第11号
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28ラグジュアリー消費における知覚価値と倹約志向の相互作用      ― ラグジュアリー・ブランド品を所有する日本人を対象に ― 李  炅泰すと説くが(e.g., Shukla & Purani, 2012; Truong & McColl, 2011)、それが倹約と持つ関係についてはあまり検討されていない。結果的に両分野を架橋する研究が少なく、節約しつつ贅沢品を買う人たちの価値意識と反応については十分に解明されていない。そのため、LB消費と倹約の統合的な分析は、ラグジュアリー消費研究と倹約研究を結びつけて、両分野の発展的拡張に寄与し得る。本研究のコンテクストは、以下の通りである。まず、日本人消費者に着目する。日本は世界有数のラグジュアリー消費市場であり、高度に進んだラグジュアリー民主化が指摘されている(Degen, 2009; Kapferer, 2012)。その事実はいくつものデータからも見て取れる。一例に、調査会社のMyVoiceが2016年8月に実施した『高級ブランドに関するアンケート調査(第4回)』(n=10,891)2によると、回答者全体の5割以上、30代以上の女性に至っては6割以上が高級ブランド品を持っている。これはLBがもはや富裕層の専有物ではなく、多様な市場セグメントに広く普及していることを表している。次に、分析対象者を高級ファッション・ブランド品の所有者(以後、「LB品所有者」と略す)に定める。高級ファッションは優れたデザインと品質だけでなく、プレステージの典型的なシンボルでもあり、ラグジュアリー消費研究の格好のカテゴリーとされる(Goldsmimith et al., 2012; Eastman et al., 1999; O’cass & Frost, 2002)。また、LB品所有者は、既に高級ブランド品を購入・使用している点で、LB消費と倹約が共存する事象の標本的な存在になり得る。ただ、先述のように、倹約志向が低い故に贅沢品を買う場合も考えられる。そのため、本研究ではLB品所有者を倹約志向の高低で分類し、「LBの知覚価値次元→満足→再購買意図」の連鎖的な因果関係(Kim et al., 2012; Patterson & Spreng, 1997)を比較検討する。ここでのリサーチ・クエスチョン(RQ)は以下の2つである。RQ1:多次元(実用・感情・象徴:2.1で詳述)のLB知覚価値がどのように満足を規定し、次いで再購買意図(以後、「意図」と略す)につながるのか。RQ2:LB品所有者の中で倹約志向の高い消費者と低い消費者の間には、上述の連鎖的な因果関係にどのような類似点と相違点があるのか。これらのRQを解明することで、多次元LB価値の働きとともに、LB消費における倹約水準の役割が把握できるようになる。その成果はラグジュアリー消費研究と倹約研究を実証的に架橋するものであり、LB消費と倹約が共存する消費行動の解明に役立つと考えられる。また、国際マーケティング研究の文脈で、次のような位置づけと意味を持つ。当該領域では、ラグジュアリー消費と関連して幾多の議論がなされてきた。それには、グローバルLBに対する各国消費者の知覚反応やその国際比較(e.g., Bian & Forsythe, 2012; Christodoulides et al., 2009; Le Monkhouse et al., 2012; Park et 2 https://myel.myvoice.jp/products/detail.php?product_id=21713、2017年1月2日アクセス。

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