多国籍企業研究第11号
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27ラグジュアリー消費における知覚価値と倹約志向の相互作用      ― ラグジュアリー・ブランド品を所有する日本人を対象に ― 李  炅泰1.はじめに今日、世界の高級品市場では「ラグジュアリー民主化(democratization of luxury)」(Fiske & Silverstein, 2002; Kapferer & Bastien, 2012; Kastanakis & Balabanis, 2012; 田村、2017)が叫ばれている。この現象は、グローバル化、新興国の成長、所得向上、価値観の多様化などを背景に、ラグジュアリー・ブランド(luxury brand: LB)が一部の富裕層に限らず、様々な所得水準、ライフスタイル、購買動機を持つ市場セグメントで消費されるようになったことを指す(Hader, 2008; Kapferer & Bastien, 2012; 田村、2017)。Fiske & Silverstein(2002: 1)では、同現象を「ミドル・マーケットの消費者がより高いレベルの品質・嗜好・憧れの対象へ、選別的にトレーディング・アップすること」1と定義するが、より平易な言い方をすれば「一定の所得水準さえ確保できれば誰でも贅沢に多かれ少なかれアクセスできるようになった」(田村、2017: 1)状況といえる。同現象とともに、ラグジュアリー市場は商品の多様化と消費層の拡大を伴いつつ、大きな変貌を遂げてきた(Fiske & Silverstein, 2002; Kapferer & Bastien, 2012)。世界高級品市場の規模も年々拡大を続け、1997年920億ユーロから2007年1,700億ユーロを経て、2017年には過去最大の2,620億ユーロに達している(D’Arpizio et al., 2017)。多国籍ラグジュアリー企業にとっては、進出先の国々で、富裕層だけでなく、中間層を含む種々のセグメントを理解することが重要になっているといえよう。ラグジュアリー民主化の下で消費者は、魅力や価値を感じる商品には高額の支出を厭わない半面、普段の買い物では節制的な行動をとりやすい(Fiske & Silverstein, 2002)。このことは、富裕層でなくても欲するLBにアクセスできるが、その代わり他の買い物では倹約志向が働きやすいことを表す。無論、倹約志向の低さ故に贅沢なLBを消費する場合も容易に考えられる。しかし他方で、節約しつつ贅沢もするという、一見相反するような2つの行動が1人の消費活動に共存しているのである。それにもかかわらず、既存のラグジュアリー消費研究と倹約研究には、上述した事象を実証的に追究して両分野を橋渡しした研究が少ない。そこで本稿では、LB消費における知覚価値と倹約志向との相互作用について検討する。倹約は長期目標を達成するべく、モノやサービスを工夫して利用したり、その取得自体を節制したりすることである(Lastovicka et al., 1999)。この意味からすれば、LB消費と倹約の共存はいささか矛盾しているようにもみえる。というのも、倹約研究では節約意識が高いほど、物質主義的な消費やステータス重視の消費が抑えられるとしているからである(Goldsmith et al., 2014; Lastovicka et al., 1999)。一方で、ラグジュアリー消費研究では、複数のプレステージな知覚価値がLB消費を促1 同稿によると、トレーディング・アップ(trading up)は、重要な意味や高い価値を感じる商品の場合、所得水準を超える支払いも厭わずに手に入れる、ミドル・クラス層の消費行動を指す。この行動は選別的なトレーディング・ダウン(trading down:あまり重要性を感じない商品については、コスト・パフォーマンスを考慮しつつ低廉なものを買い求めること)と結合(combination)して現れる傾向がある(同稿および Silverstein & Fiske, 2003を参照)。同稿では、プレミアムな価値を保ちながらも価格やチャネルの面で中流層の手に届くような高級品を「新ラグジュアリー(new luxury)」と呼称した上で、選別的なトレーディング・アップとトレーディング・ダウンのコンビネーションに支えられた新ラグジュアリーの拡散をラグジュアリー民主化と関連付けて論じている。

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