多国籍企業研究第11号
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23日系中小製造業のアジアにおける新規販路開拓プロセスの研究 守屋 仁視体的な受注に繋がった。第2節で述べたとおり、このマーケティング資源は国内で培った内製品の技術レベル、納期や納品形式に関するK社の強みという競争優位性があったからこそ、構築されていることがわかった。5.結論と今後の課題本稿の発見事実を整理する。第1に、販路開拓に役立ったものづくりの経営資源を明らかにした。それは、内製品であるパイプ類等の製品技術や生産技術力である。また、日系競合他社と比較しても優位性がある納期管理技術、及び納品形式でのノウハウや技術に関する強みである。第2に、販路開拓に貢献するマーケティング資源は、K社の日本と現地との密接な連携力であることがわかった。日本の組織には、現地と連携して販路開拓を推進するための、営業面と技術面の能力と体制がある。また、現地企業には日本の力を利用するための経営資源として、日本から送り込まれた日本人と販売組織がある。これにより、情報の連携と提案の連携、生産技術の修正に関する連携を行うことで、販路開拓を進めることができた。また、現地での知名度という無形資源も販路開拓に役立っていることが観察できた。筆者の当初の分析枠組みでは、現地マーケティング資源とは、現地に進出した企業に蓄積される経営資源であった。しかし、本事例では、日本の本社と現地との連携活動の中に多くの販路開拓のノウハウがあると考えられる。そこで図表2のように、日本のマーケティング資源と現地マーケティング資源を囲って、現地マーケティング資源と示している。第3に、その現地マーケティング資源の形成・獲得の過程を分析した。第一ステップは、経営者の明確な方針と海外販売拡大へのコミットメントであった。次に、経営幹部の理解のもと海外事業責任者が、販路開拓に貢献する連携力を作り出していった。その後、現地での知名度や信頼というマーケティング資源が認識できた。これは、ものづくりの強みがその形成に影響していた。今後の第1の課題は、図表2の分析枠組みをさらにブラッシュアップするために、観察事例を増やすことである。中小企業にとって海外展開は、トップの方針や強いコミットメントが必須であろう。また、冒頭で述べたとおりアジアに工場進出した中小製造業は、日本市場向けとほぼ同じ仕様の製品を製造販売しているBtoBの中間財企業が多い。現地で蓄積する資源だけでなく、日本と図表2 新しい分析枠組み筆者作成

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