多国籍企業研究第11号
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22日系中小製造業のアジアにおける新規販路開拓プロセスの研究 守屋 仁視であるから、現地でも日本人の営業が重要である。また、K社では各国に販売会社を設立している。タイは製造だけでなく販売機能を持つ製販会社となっているし、中国やインドネシアは製造会社以外に販売会社がある。またアメリカにも販売会社がある。もともと商社としての歴史を持つK社が内製品の生産だけにとどまらず、海外現地販売、第三国輸出などを広く行うことを念頭においた海外展開を考えていたため生まれた販売インフラであろう。第3の経営資源は、現地での知名度である。K社の新規開拓はあくまでも日系の新規取引先が主である。しかし、現地で商売を長年行う中で獲得した知名度で、現地発の情報で新規開拓できる素地もできてきた。例えば、3節で触れたようにアメリカのC社やD社との取引の獲得は、K社の実力を調査し、顧客であるC社側から働きかけがあって実現した取引である。(3)そのマーケティング資源をどのように獲得したのかK社はどのようにして現地販売のための資源を獲得したのか。そのプロセスを分析する。第一にあるのは社長の海外市場へのコミットメントであり、明確な現地販売拡大の方針である。K社では、上海、タイ、インドネシア・アメリカなど全進出先に販売会社や販売部門を設けている。これは現地販売に力を入れていこうという社長の考えを示していると考えられる。そして、K社社長や経営幹部は、頻繁に現地組織や現地の顧客を訪問し、トップ営業を行っている。また、現地に送る優秀な人材やリーダー人材を採用している。特に、リーダーシップを持った海外事業責任者のF氏を外部から採用したことは、重要であったと考えられる。K社が大手メーカーで上海の製造会社の社長を経験したF氏を中途採用したのは、海外展開を開始して間もない2005年であった。F氏に、与えられたミッションは、海外で販売する事業の拡大であった。そのために、F氏を自動車部品事業本部の技術、製造、営業という事業機能全体、及び日本と海外両方のオペレーション全体を統率するポジションに起用し、海外での販路開拓に対して積極的なリーダーシップを発揮する体制を整えた。次の段階は、本社と現地会社との連携力の強化である。F氏は、日本と進出国の両方の営業を統括しているので、日本と海外現地で営業情報を共有したり提案営業活動をスムーズに行うことができる。また、日本における製造や開発部門を統括しているので、現地材料を使った生産技術開発と現地工場への技術移転や修正もスムーズに行うことができた。F氏はそのポジションを使って、海外販売拡大に向けて日本の自動車部品事業本部と海外の拠点をまとめていくマネジメントを行った。K社では方針を各国で共有し推進するために、半期に一度、重点方針を示し、課題と方策展開を定期的に管理して方針の浸透を図っている。重点方針のすり合わせ、テレビ会議を利用した密接な情報交換などの具体的な活動がそれを示している。現地販売拡大の明確な社長方針、海外事業責任者のリーダーシップ、そのリーダーシップのもと日本と現地が連携しやすい組織体制が、日本の本社と現地との連携力形成に役立ったと考えられる。さらに次のステップとして、現地での知名度や信頼という現地マーケティング資源が醸成され具

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