多国籍企業研究第11号
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20日系中小製造業のアジアにおける新規販路開拓プロセスの研究 守屋 仁視さきほど殆どの新規取引先情報は日本側といったが、現地情報から取引に至るケースも少ないがある。例えばK社は日系以外にアメリカのC社やD社との取引を新規獲得している。これらは、A社に納入をしているK社製品の実力を調査したC社側から引き合いがあったものである。また、D社のケースでは、中国のティア1企業との取引実績が評価され、その会社からD社を紹介されたものである。これらはいずれもK社の内作品であるシートベルト関連の金属部品の品質の高さ、JIT納入などのデリバリー力の高さを評価されて顧客の側から引き合いがきたのである。(4)新規販路開拓のための現地に合わせたものづくり重大な事故に繋がる可能性がある重要保安部品は、日系自動車メーカーは世界全体どこでも同じ品質基準を求めている。一方で、現地調達率を高めることも必要である。K社の内製品は金属加工部品であるので、いかにして日本製よりバラツキの多い中国の鉄を使い、日本製材料を使った時と同じ品質性能を実現するかは大きな問題であった。K社はそのために、日本の自動車部品事業本部の生産技術陣が、中国のワイヤーや鉄鋼製品を使った新しい製造方法を開発した。現地材料を使いこなすには、そのための追加技術開発や中国材専用の品質管理ノウハウを新たに確立する必要があった。このような努力により、シートベルト用のワイヤー、プレス製品、鋼球等は現地調達化が進み、シートベルト用のワイヤーは100%の材料現調化を実現した。パイプについては、50%ぐらいは中国の鉄を使いながらも、これまでと同じ性能を確保することに成功した。また、材料現地調達化により顧客の要求に応えうるコストダウンを行うこともできるようになった。このような現地調達材料を使った製造方法の開発は、日本のテクニカルセンター、品質管理部などが行い、導入指導を現地で行った。また、毎年ティア1の監査があるために、K社本社の品質管理部も定期的に品質監査やパトロールを行い品質の確保に努めている。販路開拓同様、現地調達材料を使ったものづくりにおいても日本側が主導的で重要な役割を演じていることがわかる。4.経営資源の分析どのようなものづくりの経営資源やマーケティング資源が販路開拓に貢献したか、K社はマーケティング資源をどのように獲得したのかの順番で分析する。(1)どのような「ものづくりの経営資源」が販路開拓に貢献したかK社の事例では、どのようなものづくりの強みが、販路開拓に役立ったと考えられるだろうか。第1に、内製品の製品技術や生産技術力である。K社の内製品の製品仕様や品質は、日系他社と比べた場合、必ずしも独自優位性があるわけではないというが、その技術レベルは地場企業が真似

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