多国籍企業研究第11号
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17日系中小製造業のアジアにおける新規販路開拓プロセスの研究 守屋 仁視のいうものづくりの経営資源)を差し引いた資源を現地マーケティング資源とまず暫定的に定義して議論を進める。本稿ではこの分析枠組みに基づいて、以下の3点を明らかにしていく。第1に、ものづくりの経営資源を分析し、販路開拓に役立った経営資源とは何かを明らかにする。第2に、販路開拓に役立ったマーケティング資源を明らかにする。第3に、そのマーケティング資源をどうやって獲得したのかというプロセスをあきらかにする。3.K社の現地販路開拓事例海外へ工場進出した本邦中小製造業は、第1にアジア地域への進出が約9割を占める21。第2に、生産設備や部品など生産財メーカーが多い22。第3に特にアジアに進出した場合は、現地日系企業との取引や日本への輸出が大きな割合を占める23。という特徴がある。従って、海外に工場進出した典型的な本邦中小製造企業の事例研究を行うには、このプロフィールに合致する企業を研究することを必須条件とした。上記条件を満たす企業の中で一次資料の収集可能性の高い候補を複数ピックアップし、かつ、進出時点の顧客以外に販路開拓に成功したK社を事例企業として選定した。そして、K社の海外展開で中心的役割を演じた事業責任者であるF氏に対して、2017年9月8日から、2018年1月31日までの間に、3回にわたって半構造化インタビュー調査を実施した。(1)K社の概要K社は資本金9,000万円、従業員数約300名の中小企業である。K社はもともと商社として創業したが、商社機能に加えて、製造機能も併せ持つメーカーベンダーと言われる業態が特徴である24。K社は自動車の重要保安部品を扱ういわゆるティア2企業(二次部品メーカー)25であり、日系自動車メーカーのティア1企業が顧客である。自動車向けの部品における内製品は、エアバックや発電装置用のパイプ、ワイヤーなどの冷間鍛造・圧造品、金属の切削加工品である。買入れ品としては、ボルトやナットなど締結用金具(ファスナー類と呼ばれる)やアルミ加工品など様々な製品がある。K社は自社の内製品とそれ以外の製品を買い入れて同時に納品したり、ある程度アセンブリーをした複合部品として販売をしたりする。また、顧客企業の開発段階から入り込み、提案を行いながら企画設計、製造、加工、販売を行う会社である。その沿革に目をむけてみる。K社は、当初ネジの商社として事業を開始し、昭和50年ごろ、自動車用部品に、製品分野を拡大する。エアバックの製造大手のA社、オルタネーター(発電機)やス21 2014年度中小企業実態基本調査「2.海外展開の状況(2)」に基づくデータ(守屋、2016)22 中小企業庁(2010)p. 15823 中小企業庁(2010)p. 15724 インタビュー調査によれば、K社全体では、自社の内製品売上は3割、残りは他のメーカーからの買入れ製品の販売である。25 自動車業界では、一般に一次部品メーカーをティア1、二次部品メーカーをティア2、三次部品メーカーをティア3と呼ぶ。

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