多国籍企業研究第11号
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16日系中小製造業のアジアにおける新規販路開拓プロセスの研究 守屋 仁視これが吉原(1984)における経営資源である。吉原(1984)では、海外進出の成功要因として、国内で蓄積した経営資源を重視しており、それは製品技術14、生産技術15、経営ノウハウの3つから成る16。経営ノウハウとは、その内容から主に工場経営のノウハウが想定されていたと思われる17。しかし、今後現地販売を拡大していくためには、進出時点の顧客以外の顧客へ販路開拓を行うことが求められる18。現地販売を拡大していくためには、進出時に移転した日本で培った静的(Static)なものづくりの経営資源に加え、進出後に現地で獲得した経営資源を組み合わせる枠組みが必要である19。その経営資源は、図表1において「現地マーケティング資源」として表されている。では現地マーケティング資源とは何か。Day (1994:41)は、市場主導型の企業組織の持つケイパビリティを3つに分類している。製造、ロジスティクス、人事など企業内部に重点を置いたプロセス(Inside-Out Processes)、市場の感知、顧客やチャネルとの関係構築など外部に重点を置いたプロセス(Outside-In Processes)、戦略立案、価格設定、購買、新商品開発など上記2つを統合するプロセス(Spanning Processes)に各々関するものである。しかし、企業の外部に存在する無形資源であるブランドなどは含まない。一方、Douglas and Craig (1995)は、国際マーケティングの進化段階を3つに分け、第2段階を現地市場拡張段階と呼び、海外進出してから現地で蓄積してきた資産を活用し、新規の顧客層を広め製品販売を拡大する段階としている。Douglas and Craig (1995)のいう資産には、ブランドや名声などの無形資源、当該国内の生産物流ネットワークを含め進出以来蓄積した現地資産全てが含まれる20。本稿では、現地マーケティング資源は、進出以来現地で蓄積してきたDouglas and Craig (1995)のいう資産から、吉原(1984)の経営資源(すなわち、本稿14 吉原(1984)p. 20115 吉原(1984)pp. 202-20616 吉原(1984)p. 23717 吉原(1984:207-209)ではその例として、チームワーク重視、現場重視、長期的観点に立つ経営を上げている。またこれらを展開したものとして、提案制度、QCサークル活動、作業服、各種福利厚生活動、作業者の管理職への登用、社長の全従業員への業容説明などを挙げている。18 守屋(2016)p. 11019 現地市場拡大段階での現地資源の重要性はDouglas and Craig(1995)で強調されている。20 Douglas and Craig(1995)pp. 40-41、pp. 180-182図表1 分析枠組み筆者作成

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