多国籍企業研究第11号
19/62

15日系中小製造業のアジアにおける新規販路開拓プロセスの研究 守屋 仁視が現地で生産する製品は、先進的(Cutting edge)製品ばかりではない。進出先で現地日系企業への生産財の取引が大きな割合を占めるが、日本国内とほぼ同じ仕様の製品を生産販売していると考えられる8。従って、これらの日本独特の進出経緯や現地状況を踏まえた上で、アジアに生産拠点進出した中小製造業の、進出先現地での販路開拓に適合した分析枠組みを考える必要がある。ところで、新興国で生産し現地販売する製品に関して、天野(2010)は先進国と新興国市場(中間層市場)においては市場条件や経営資源の非連続性に直面するとしている9。しかし丹下(2015)などの事例研究では、事例は少ないものの問題となるほどの非連続性は報告されていない。また、今後も本国で培ったものづくりの技術を新興国で活かす戦略も推奨されている。(湯、2009)中間財を現地生産販売する本邦中小製造業には、独自の特徴が見出せる可能性もあるが、まだ十分に明らかにされていない。この点についても本事例で確認してみたい10。(2)分析枠組み吉原(1984)は、6社のケーススタディにより中堅企業の海外進出の実態解明と成功要因の探求を行った。海外進出の成功要因として、経営資源の優位性を最も重視した11。その経営資源は、①ものづくりの経営資源である。②日本で培われて完成した静的(Static)な経営資源である。という特徴がある12。吉原(1984)の時代には、日本国内で実行できている製品生産を海外に首尾よく移管し、その生産を海外で再現することが最重要であったと考えられる。吉原(1984)は30年も前の文献であるが、現在でも一定の有効性をもっている。顧客企業への随伴やアウトイン目的で海外進出し、日本で培ったものづくりの技術を使い、日本と同じような中間財を提供する中小製造業は現在も多いため13、このような静的なものづくりの経営資源は重要であるからだ。そこでこの吉原(1984)の中で述べられていた経営資源を基礎として分析枠組みを考える。図表1において、左側は日本にある経営資源、右側は進出先国の経営資源である。進出時現地で必要とされた「経営資源」とは、日本で培われたものづくりの経営資源であった。随伴進出でもアウトイン目的の進出も、日本で培ったものづくりの経営資源を如何にして現地に移転し、日本で顧客に提供しているのと同等の品質を再現できるが重要であった。このことは、図表1において、日本から進出国への「ものづくりの経営資源」の資源移転として表されている。先に述べたとおり、8 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2011)p. 459 天野(2010)p. 14 10 これに関して、臼井(2015)は、何故ある本国資源は他国でFSAとなり、他の資源は活用できないのかという問いに答えるために、比較的短期のプロセスを想定したリソース・リポジショニング・フレームを開発した。臼井(2015)によれば、本国資源の束は、他国に移ったときまずアンバンドル化され、その後顧客選好の程度と希少性の程度によって現地市場でのポジション(企業特殊資源、基盤資源、過小価値資源)を再び探し当てるという。11 吉原(1984)p. 237、p. 24212 守屋(2017)pp. 125-12713 中小企業庁編(2010)p. 158、守屋(2016)pp. 108-109

元のページ  ../index.html#19

このブックを見る