多国籍企業研究第11号
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13日系中小製造業のアジアにおける新規販路開拓プロセスの研究 守屋 仁視1.はじめに海外に生産拠点を持つ本邦の中小製造業にとって、その進出先での販売の拡大が重要となってきている。そのために、進出先で新しい取引を獲得できるかどうかが大きな課題であるという1。しかし、中小製造企業が持つ海外進出先でのマーケティング能力は必ずしも十分とはいえない。日本の中小製造業の海外進出は、大手取引先への随伴進出や、コストダウンを狙ったアウトイン目的の進出が多かったので、生産機能の海外移転であり、進出先で販路を開拓したり、商品開発を行ったりする機会は十分ではなかったと推測できるからである。生産拠点としての進出であるからものづくりの経営資源は現地に移転されているだろう。しかし、販路開拓や現地にあった商品をつくるためにはマーケティングの資源が必要である。従って、現地販売拡大という課題に直面する本邦中小製造業に処方箋を提供するためには、現地での製品マーケティングに役立つ経営資源は何か、それを如何に獲得し活用するのかを示すことが必要である2。筆者の研究目的は、日本の中小製造業の独特の進出経緯を踏まえた上で、進出先で新規販路開拓に役立つマーケティング資源の獲得プロセスを明らかにすることである3。本稿は、その出発点として、過去に東南アジアや中国に進出し、販路開拓を現地で成功させた中小製造業の一例としてK社をとりあげ、販路開拓に寄与したマーケティング資源は何か、いかにしてその資源を獲得したのかを明らかにする。以下の構成で議論を行う。第2節では、先行研究の説明と、本稿の分析枠組みについて述べる。第3節では、K社選定理由、企業概要、販路開拓の実態をインタビュー調査に基づき記述する。第4節では、経営資源を分析する。すなわち、ものづくりの経営資源のうち、どのような資源が販路開拓に貢献したのか、販路開拓に役立ったマーケティングの資源とは何か、それをどうやって獲得することができたのかを分析する。そして5節では、発見事実のまとめと今後の研究への示唆を示して結びとする。2.既存研究の課題と分析枠組み(1)既存研究の課題本邦の中小企業研究における海外進出というテーマは、国際化の進展の中で中小企業が被る問題への対応策として発展してきたので、海外事業活動自体に焦点は置かれてこなかった。1985年のプラザ合意以前の論点は、国内の雇用問題やブーメラン現象など国際化によって国内の中小企業が受ける不利な問題の研究が中心であった4。1985年の急激な円高以降も、産業空洞化などグローバリゼーションがもたらす国内産業へのマイナスの影響がさかんに議論された5。21世紀に入り、中国や1 佐竹編(2014)pp. 50-51、p. 61、中小企業庁編(2014)p. 3242 守屋(2017)p. 1143 現地から日本や第三国へのリバースイノベーション、現地以外での販路開拓等は研究対象に含めていない。4 中小企業事業団等(1985)pp. 302-303、瀧澤(1982)p. 295 (財)中小企業総合研究機構(2003)pp. 331-340

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